〜 太平洋クラブの法的整理の考察 〜 |
【2012年3月期】 2012年1月23日、三井住友VISAマスターズで有名な太平洋クラブの民事再生法申請は、逆風に立ち向かおうとしているゴルフ業界に大きな衝撃を与えました。 弊社のお客様でも太平洋クラブ会員は少なくありません。近年、太平洋クラブのマイナス風評を耳にしながらも、太平洋クラブの法的整理前に、会員の方々へ太平洋クラブ会員権の預託金請求や売却を強く薦めることが出来なかった反省も踏まえて、今回のテーマは、太平洋クラブの法的整理についてのレポートをお届けさせて頂きます。 【太平洋クラブの法的整理に至るまでの経緯】
H18 *太平洋ホールディングス設立 資本金30万円、合同会社(ペーパーカンパニー) 株主 東急不動産 39%、大和キャピタルマーケッツ、他1社 H19 *太平洋クラブに対する三井住友銀行保有の債権と株式を太平洋ホールディングスに売却譲渡。 *太平洋ホールディングス(大株主 東急不動産)が太平洋クラブの株式取得で、親会社となる。
※会員および対外的には、東急と太平洋の業務提携と発表 H22 *(株)太平洋アリエス設立、資本金1億円 太平洋クラブの所有する御殿場コース、江南コース、相模コース、軽井沢コース、御殿場ウエストコースを太平洋アリエスに移譲。 (5コースの所有権が太平洋クラブからアリエスに移転) H23年4月1日 *太平洋クラブの社長に桐明幸弘氏が就任。 ≪桐明幸弘氏経歴≫ S55年 西南学院大学(法)卒業⇒東洋信託銀行入行 ⇒レフコグループ⇒ソネンブリック・ゴールドマン⇒デトロイト・トーマツ ⇒インテグリティサポート社長(事業再生業、資本金100万円、従業金1名) ※尚、前社長 治郎丸清志氏は、ハウス食品且ミ外監査役。 H24年1月23日 *アコーディアをスポンサーとする太平洋グループ7社の民事再生法申請。 グループ合計負債 1,511億円 *太平洋クラブ 1,260億円 *太平洋ゴルフサービス 12億円 *太平洋アリエス 482億円 *太平洋ヒルクレスト 27億円 *太平洋TKS 67億円 *太平洋トリアス 25億円 *太平洋ゴルフスクエア 18億円 *民事再生申請翌日も会員募集が発覚。 *債権者説明会は、1月27日大阪、1月30日東京という電光石化のスケジュール。 【太平洋クラブ争点のポイント】 今、大きく問題としてクローズアップされているのが、太平洋クラブ会員を守る会が争点にしている6つのポイントです。(前述 ポイント1 太平洋クラブには、預託金ありの会員と預託金なしの会員が存在します。 しかし今回の民事再生法で、預託金がない会員は、債権者として認定されていません。 これに対して預託金なしの会員もプレー権の債権者であるという点です。 ポイント2 今回の民事再生法は、会員の預託金を大幅カットするものであり、会員だけが痛みを負うものです。太平洋クラブの親会社である太平洋ホールディングスは太平洋クラブへの債権保有をしていますが、親会社も会員同様に痛みを負うべきであり、太平洋クラブへの債権放棄をするべきという点です。 ポイント3 太平洋クラブの親会社太平洋ホールディングスの大株主である東急不動産には当然、経営責任があり、これを追求するという点です。太平洋クラブの親会社であることを隠し、対外的には太平洋クラブと東急不動産との業務提携開始と発表したことも問題となっています。 ポイント4 一番大きい争点となっているポイントです。 太平洋アリエスという新会社の分社化が濫用的会社分割であり、詐害行為にあたるというものです。 現在、会員の預託金債務は、太平洋クラブが負っているので、会員は、太平洋クラブに対しての債権しかありません。 しかし、看板コースの御殿場コースを含む5コースの所有権が、会員へ未通知で、太平洋クラブから太平洋アリエスに移転させたため、今まで共通会員権として利用できたこの5コースのプレー権が喪失してしまう事態が生じています。(預託金債務者と所有権者の分離) ポイント5 太平洋クラブも予測していたことでしょうが、スポンサー予定のアコーディアに対する会員の拒否反応。 アコーディアグループ傘下になることは、年会費増額、大衆化、コースコンディションの悪化、来場者の質の低下などのマイナスイメージが沸き上がります。 ポイント6 民事再生法申請の直前、直後でも太平洋クラブ会員募集を行っていたことが詐欺行為にあたるという点です。 良識ある会社であれば、当然、法的整理のスキームに向かって動き出した時点で会員募集は中断すべきことでしょう。会員に損害を与えることがわかっていながら、目先の収益確保に走ったことに他なりません。 このように太平洋クラブを巡る問題点は多々ありますが、太平洋クラブに限らず、このような水面下での策略は、多くの預託金制ゴルフ場がそうですが、非上場会社だからこそ可能なスキームだということです。 預託金制ゴルフ場は、会員に対して、財務状況を含めディスクローズする責任を負うべきです。 ゴルフ場の財務内容と経営内容が不透明なことが大きな問題を引き起こします。 公開企業である上場企業の事業部が経営しているゴルフ場や完全株主制ゴルフ場の場合には、絶対にありえないスキームです。 今回の太平洋の民事再生申請は、今まで真摯に健全経営をしてきたゴルフ場に対しても多大な迷惑をかけました。 預託金を規約通り償還をしていたゴルフ場には、会員からの預託金償還請求が急増しています。 また、利用していないコースの見直しもありますが、法人筋から売却志向を増幅させ、会員権相場の低迷にも更に拍車をかけました。 【太平洋クラブの行った預託金償還対応】 ではゴルフ会員権預託金債務682億円について、(株)太平洋クラブが、企業努力してきた対応や対策とは 具体的に何があったのでしょうか。 @ 預託金償還の先送り策 会員の預託金償還期日が到来し、会員が退会償還請求をすると1年後から36回払いの分割返済に切り替えたこと。 A 民事再生法への持ち込み策 親会社である太平洋ホールディングスの大株主である東急不動産が損をしないスキームに仕上げたこと。 B 預託金なしの会員権募集策 償還問題が生じない会員募集によって収益を確保したこと。 結局、会員権市場のバロメーターと云われ、旧住友銀行がバックアップしているので安心だと云われ、日本のプロトーナメントで脚光を浴びていた、業界の期待を背負っていた太平洋クラブは、預託金償還問題の対策として、他のゴルフ場が見習うべき点は一つもなく、蓋を開ければ、何もせずに預託金債務を放棄したというだけです。 【太平洋クラブグループの相関図】 グループ負債合計 1,511億円
【 総 論 】 太平洋クラブの法的整理で痛感したことは、『利』と『義』についてです。 企業である限り、利益(経済)は非常に大切なことですが、大義・正義(道徳)を欠いてまで追求すると、一番大切な信用を失墜させます。 多くの先人達の教えを太平洋クラブは、民事再生申請に踏み切る前に真剣に考えたとは思えません。 安易なゴルフ場の民事再生の日常化は、日本人の道徳までを堕落させてしまうという恐怖を感じます。 『道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である』 〜二宮尊徳〜 江戸時代の言葉ではありますが、いつの時代であっても通用する不変の箴言でしょう。 コンプライアンスが叫ばれている昨今ですが、法令遵守はもとより、道徳や義が根っこになければ経済活動は犯罪であると喝破しています。経済あっての人間社会、利益あっての企業社会ではありますが、なによりも法律の前に道徳という土台が重要だということです。 最近の大手企業の不祥事も、本を正せば利の追求に目が眩んだ事により起こったことでしょうし、食品偽装などもしかりでしょう。 人は、利益追求をしすぎたり、窮地に追い込まれると、最初は意識していた理念、道徳や義というものが、知らぬ間に見えなくなってしまうのかもしれません。 他にも『利に放って行えば怨み多し〜論語〜』、『利をもって利となさず、義をもって利となす〜大学〜』 等、ありますが、利益過剰追求の恐ろしさや義や道徳の大切さは紀元前の書物にも説かれています。 太平洋クラブの民事再生を通じて再確認したことは、あらためて襟を正して、企業の根っこの理念や道徳を片時も忘れずに美しく利益追求していくべきだ、ということです。 最後に、今回の太平洋クラブの民事再生は、会員が1万3,500名もいること、会員は全国に点在すること、ゆえに反対会員の一致団結が難しいこともカウントしていると考えられます。 会員の皆さんは、太平洋クラブ会員を守る会に入会して、今回のスキームを阻止するために団結して、会員権利を守り抜くことが重要であると強くアナウンスさせて頂きます。 (AIゴルフ総研事務局:川島利彦、柳肇、品川なつみ) |